自分の思考と、
その周りにある思考。
それらが重なることで、
自分だけの色が生まれる。
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『重なる色』
滋賀県立大学生活デザイン学科で担当した「道具デザイン演習」の授業教材として、小説を収めるための袋を制作した。
この授業では、「時を感じる」を主題に、使うことで起こる変化や、繰り返される行為、素材に残る痕跡など、物と人との関係の中に現れる時間について考えていった。
道具を完成した形や機能だけで捉えるのではなく、何かに気づくまでの時間や、試しながら考えが変化していく過程、使う人との関係によってその後も変わり続けるものとして捉えることを大切にした。
授業の進行に合わせて、教材となる小説を制作し、課題の節目ごとに学生へ配布した。
そこに書いたのは、課題の答えではない。まだ形になっていない感覚や、作る途中で生まれる迷い、立ち止まったり戻ったりしながら考える時間など、ものを作るときに誰もがどこかで向き合う問いだった。
小説は、制作の方向を示すためのものではなく、迷うことや悩むこと、まだ分からないという状態も制作の途中にある時間であり、分からないままでも進んでよいことを伝えるために制作した。
授業の中で教員が直接言葉で伝えるのとは異なり、学生がそれぞれの時間の中で文字として読むことで、その時々の制作や迷いを受け止め直すものになることを意図した。
この授業では、自分の作品を発表することと同じくらい、ほかの人の考えや見え方を知ることも大切にしてきた。
同じ主題から始めても、着目する時間や選ぶ素材、道具への向かい方は一人ひとり異なる。ほかの学生の発表や意見に触れることで、自分の考えを別の位置から捉え直し、制作の前提や方向を確かめることができる。
自分だけでは気づかなかった見方や、次の試作につながる選択肢が、他者との関わりの中から現れることがある。
最終授業では、こうした授業の時間を、学生が実際に手に取り、確かめることのできる形として渡したいと考えた。
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小説の終章「あとに残るもの」を収めるために、7色の半透明なPEシートから異なる2色を組み合わせ、全21通りの袋を制作した。
シートは、独自の熱加工によって一枚ずつ制作している。均一な既製のフィルムとは異なり、表面にはわずかな揺らぎや加工の痕跡が残り、光の透け方や触れたときの感触も一枚ごとに異なっている。
7色のうち異なる2色を組み合わせると、全21通りになる。その数は、この授業を受けた19名の学生と、授業に関わった2名の教員を合わせた21人の数と重なっている。
21通りの中で、一つの色は、ほかの6色すべてと一度ずつ組み合わされる。どの色も同じ回数だけ現れ、特定の色だけが中心になることはない。
最終授業では、21点の袋を、表側に7色が見えるように机の上へ並べた。
学生には、そのときに選びたいと思った色を一つ選んでもらった。しかし、袋の裏面には、表とは異なる、選択した時点では見えていなかったもう一つの色が組み合わされている。
二枚のあいだには、白い紙に印刷した小説が収められている。小説が入っているあいだは、表と裏の色は白い紙によって隔てられ、それぞれ一つの色として見えている。
小説を取り出したあとの袋では、二枚の色が光を通して重なり、それまで見えていなかった色が現れる。
最終授業では、それぞれの袋に現れた色を確認し、ほかの学生の袋に現れた色も互いに見せ合う時間を設けた。
同じ色から始まっていても、組み合わされる相手によって、現れる色は異なる。その違いを共有することも、授業の中で大切にしてきた、ほかの人の考えや見え方に触れる時間の一部とした。
現れた色は、どちらか一枚の中にあらかじめ存在していたものではない。
二枚が重なることによって、初めて見える色である。
意図していなかった出会いや、自分とは異なる考え、置かれた場所や与えられた条件が重なることで、それまで見えていなかったものが現れることがある。
あわせて、この袋が道具であるのかを学生に問いかけた。
紙を収めるという機能だけを考えれば、二つの色や素材の質感は、なくても使うことができる。しかし、道具は機能を果たすだけで成立するものなのだろうか。
物体の形や素材が人の意識や行為を変え、人がそこに関わることで、その形に新しい意味が与えられることがある。
この袋を通して、道具が物体として存在することと、人に使われることで意味を持つことの関係を考えてもらった。
小説を袋へ戻すと、最初に選んだ色が再び前に現れる。また、小説とは異なるものを入れることで、そのものが持つ色や形が二枚のシートと重なり、袋の見え方も変化していく。
「時を感じる」という授業の最後に、今見えている状態だけでは捉えきれない、その後の変化を含むものとして制作した。
小説を取り出したあとの袋にも、それぞれの生活の中で新しい使い方や居場所が見つかり、中に収めるものや使う人との関係によって、その後も異なる色や意味が現れていくことを想定している。